歯医者と私

 歯医者は嫌だ。でも麻酔の注射やドリルの音や、そういうのが嫌なんじゃない。注射なんてむしろ得意な方かもしれない。私が恐れているのは、一度行ったら最後、半年は通う勢いで大小さまざまな虫歯が見つかるという事実だ。その事実を受け止めるには、それなりの覚悟がいる。普段は無宗教の私でも、そんな時にはもちろん神様にお願いする。「あぁ神様、今回こそはこの一本で済みますように。そしてどうか神経まで達するようなひどい状態ではありませんように。」麻酔もしないで済むくらいがいい、なんて言わない。私はわりに謙虚なのだ。
 しかし大抵私の願いは聞き入れられない。根本まで削るような壮大な治療が何度となく繰り返されてきた。そうやって私は歯医者に対して少しずつ恐怖心を募らせていったのだ。
 けれど、私と歯医者とでは、双方落ち度はない…と思っている。関係は極めて良好。担当医は親切丁寧で、医療器具は最新、座席数は30席近くあり、支店も複数構えるしっかりした歯科で、信頼して子供の頃からずっとそこに通っている。私は毎日ちゃんと歯を磨いているし、たぶん人より丁寧にケアをしていると思う。私は頑固で気分むらも激しいしその事で人にも迷惑をかけたりもするけれど、こんな仕打ちを受ける覚えはないのです。ただ一つ思い当たるのは、うちは家系的にみんなとても歯が弱い。遺伝子までは文句は言えないので、「そのかわり目はいいし」と諦めてきました。ところが今回は奇跡的に一カ所の治療で終了したではないですか。あぁ、神様有難う。これなら歯医者がもっと好きになれそうです。