変身

10.3.10(水)19:00〜
PARCO Presents「変身」
作:フランツ・カフカ
脚本演出:スティーブン・バーコフ
出演:森山未來/穂のか/永島敏行/久世星佳

22日までやってます。
PARCO STAGE








これは、久しぶりに心から「観て良かった!」と思える良質の舞台だったよ。シンプルだけどとにかく面白くて満足した。けらけら笑う系の面白さではないけれど、目が釘付けになって息をするのも忘れてしまうくらい、じっと見過ぎて目が乾燥してしまうくらい、その世界観と演技にのめり込んで観てきました。


ここまで読んでもし気になったら、せっかくなのでこの後は読まずに是非観に行ってみて下さい。チケットもまだあるみたいですよ。


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カフカの変身は何度か読んでいて、わりと好きな作品ではあったけれど、これがどう舞台になるのかが全く想像つかなかったのに、実際に観たら驚くくらい完璧に原作そのままだった。見た目ではなく、イメージがそのまま。
セットは極めてシンプルで、役者も最小人数。小道具もほとんどなくて全てが役者のマイムと光と音で成り立っているような美しい世界でした。方向性で言うと、この前の長塚さんのアンチクロックやポツネン系かな。役者たちはメトロノームや少しコミカルで魔法のかかりそうな音に合わせて、時に人形のような無機質さで、時に剥き出しの人間味を感じる独特の動きでカフカの世界観を表現する。
ほとんど何も無い広い舞台上なのにとても閉鎖的で、グレゴールと家族の感情は常に抑圧されていびつに繋がっているようだった。それが、目で見えるというのがすごい。
この舞台の情報をちゃんと入れてないまま観てしまったのだけれど、脚演のスティーブン・バーコフは変身を何度も上演しているんだね。それならこの巧さも納得できる、不条理と言われている変身が、不条理ではなく思える。


けれどその演出も、それを表せる身体があってこそ。この舞台は森山未來がいなくては決して成立しないものだと思ったよ。何が凄いって、グレゴールが人間であった時から容姿はまったく変えていないのに、ある朝起きた時から彼が虫にしか見えなくなったこと。シャツとベスト、黒いパンツに丸メガネまでかけたままなのに、森山未來は虫になった。壁や天井を這い回ったりするのも、全てその身ひとつでやり遂げていて、私はそれを、口をあんぐり開けて凝視するしかなかったよ。


ただ一つ、下宿人だけ微妙に笑いを取りにいく演出を付けられてるのが解せなかった。アドリブなのかわからないけれど、この中にあっては少しの行き過ぎも浮いているように感じて、微妙なバランスで成り立っているこの張りつめた空気だけで十分なのにと残念に思ってしまった。


けれど、1時間40分という上演時間も程よくて、シンプルなのに少しも飽きる事なく満足して見終えることができました。未來くんはこれからも舞台中心で活躍して欲しいよ。あと、ノーマークだった穂のかさんも好演していたように思います。